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安部 晋一郎
日本原子力学会誌ATOMO, 65(5), p.326 - 330, 2023/05
電子機器の信頼性問題として、地上に降り注ぐ二次宇宙線の中性子やミューオンによって生じる電子機器の一時的な誤動作(ソフトエラー)がある。高い信頼性が求められる電子機器の数は社会の進歩とともに増えており、これらすべての機器のソフトエラー発生率(SER: Soft Error Rate)を実測的な方法で評価することは難しい。また機器の製造前の段階でSERを評価することも求められており、シミュレーションによるSER評価の重要性が高まっている。原子力学会誌の解説記事において、放射線挙動解析コードPHITSを用いたソフトエラーシミュレーション技術の研究開発や、ソフトエラー発生の物理過程の詳細解析結果について紹介する。
Kim, M.; Malins, A.; 佐久間 一幸; 北村 哲浩; 町田 昌彦; 長谷川 幸弘*; 柳 秀明*
Isotope News, (765), p.30 - 33, 2019/10
福島県内の市街地や森林等の複雑な実環境空間に対して、詳細な空間線量率の3次元分布を計算可能とする3D-ADRESを開発した。本システムでは、地形・建物・樹木等の環境中の複雑な構造物をリモートセンシング情報(地理情報)に基づきモデル化し、モデル上の様々な環境面に異なるCs線源分布が付与可能である。本稿では3D-ADRESを福島第一原子力発電所付近の帰還困難区域の住宅地に適用し、空間線量率分布の計算が有効に機能すること(空間線量率の計算値と測定値の比較から凡そ良い一致)を検証した。
津田 修一; 谷垣 実*; 吉田 忠義; 斎藤 公明
放射線, 44(3), p.109 - 118, 2018/11
東京電力福島第一原子力発電所事故後、環境中に拡散した放射性同位元素による線量率マッピングを迅速に作成するため、原子力機構は走行サーベイシステムKURAMAを用いた線量率測定を開始した。KURAMAは一般乗用車に多数搭載して、広範囲の空間線量率を詳細かつ短期間に把握することを目的として、京都大学原子炉実験所で開発されたシステムである。継続的な測定データの取得と並行して実施された改良によって、第2世代のKURAMA-IIでは更なる小型化、堅牢性の向上、データ送信の完全自動化等の機能が強化され、広域の詳細な線量率マッピングをより短期間で実施することが可能になった。本報告は、応用物理学会・分科会誌「放射線」の「アンフォールディングとG(E)関数」をテーマとした特集記事として、これまでに実施したKURAMA-IIの放射線特性に関する評価およびシミュレーション解析を総括して報告するものである。
Kim, M.; Malins, A.; 佐久間 一幸; 北村 哲浩; 町田 昌彦; 長谷川 幸弘*; 柳 秀明*
RIST News, (64), p.3 - 16, 2018/09
環境中に放出された放射線源による空間線量率の正確な分布は、住民の被ばく量を評価し、それを可能な限り低減するための必須な情報となる。しかし、市街地・森林等は複雑な構造物や樹木が存立する他、地形も平坦ではなく放射線の散乱や遮蔽が頻繁に起こるため、空間線量率の分布は非一様となる。加えて放射線源の不均質な分布は更にそれを複雑なものとするため、正確な空間線量率の分布を知ることは容易ではない。そこで、日本原子力研究開発機構・システム計算科学センターは、福島環境安全センターと連携し、福島県内の市街地や森林等の複雑な環境中の地形・樹木・建物等の3次元のリアルな構造物モデルを構築し、更に不均質な放射性セシウムの線源分布を取り込むことを可能とすることで、空間線量率の3次元分布が計算可能なシステム(3D - Air Dose Rate Evaluation System: 略称3D-ADRES)を開発した。3D-ADRESでは、人工衛星画像等のリモートセンシング情報や種々の地理情報等を最大限に活用し、構造物を認識(一部自動化済み)した後、その構造をリアルにモデル化し、モンテカルロ計算コードPHITS用フォーマットに変換することで、シミュレーションによる詳細な空間線量率分布を取得可能とする。本稿では、そのシステムの概要について記し、実際の計算例を示す他、今後の課題についても記す。
古田 琢哉
医学物理, 37(3), p.177 - 180, 2017/00
放射線感受性のある化学物質を含む水溶液をゲル化させたゲル線量計は、照射放射線による線量分布を三次元で測定できるツールである。このゲル線量計を用いて、粒子線治療に即した状況での生体物質中での線量分布を実測した研究について解説する。この研究では実測結果を粒子・重イオン輸送計算コードPHITSを用いたシミュレーションの結果と比較検証することで、現状の粒子線治療モンテカルロシミュレーションの精度を調べた。不均質な生体物質中を通過することで形成された実測の複雑な飛程端形状を2mm程度の違いの範囲でシミュレーションが十分再現することが示された。また、ゲル線量計が三次元の線量分布を可視化できる優れたツールであり、現状の計算シミュレーションの精度検証の他、将来的に治療ビームの品質保証等の用途に使用できる可能性が分かった。
安部 晋一郎; 佐藤 達彦; 松葉 大空*; 渡辺 幸信*
Proceedings of 11th International Workshop on Radiation Effects on Semiconductor Devices for Space Applications (RASEDA-11) (Internet), p.45 - 48, 2015/11
宇宙から降り注ぐ放射線(一次宇宙線)と大気の相互作用で生じる二次宇宙線は、地上にある電子機器の半導体デバイスの誤作動(ソフトエラー)の原因であることが知られている。次世代型のデバイスは微細化によって放射線耐性が低下しており、近年環境ミューオンの影響が懸念されている。ミューオンは仮想光子を介した反応や負ミューオン捕獲反応により二次荷電粒子を生成する。そこで本研究ではこれらの反応に着目し、環境ミューオン起因のソフトエラー率(SER)への影響を解析した。本研究では、PHITSと多重有感領域(MSV)モデルを用いて、設計ルール(半導体部品中の基本的な配線の太さ)が25nmのNMOSFETに対するSERを解析した。その結果、環境ミューオン起因のSERは環境中性子起因のSERの数%以下となり、その主因は負ミューオン捕獲で、仮想光子を介したミューオン核反応の影響は小さいことを明らかにした。また、環境ミューオンの直接電離による影響は臨界電荷量の非常に低い領域のみに現れることも実証した。
小原 真司*; 大石 泰生*; 高田 昌樹*; 米田 安宏; 鈴谷 賢太郎
日本結晶学会誌, 47(2), p.123 - 129, 2005/04
第3世代放射光からの高強度高エネルギーX線回折を利用すると、その短波長と高透過能から、透過法で広いQ領域を迅速に測定することが可能になる。われわれは、最近、SPring-8における高エネルギーX線回折とパルス中性子回折を組合せ、さらにこの両データに逆モンテカルロシミュレーション法を適用することにより、これまで不明であったガラスや液体など非晶質物質の「乱れた構造」を三次元可視化し、その詳細を理解することに成功した。本稿では、その実験の詳細と酸化物ガラスと強誘電性半導体混晶の成果について解説する。
大石 哲也
RIST News, (36), p.12 - 20, 2003/10
さまざまなタイプの放射線源に対し、線検出システムを効率良く設計・最適化するためのEGS4ユーザーコード(EGS4-UCDOD)を開発した。本ユーザーコードは、PRESTAアルゴリズムやCG法を組みこんだPRESTA-CGを基盤としており、これに材質の断面積の計算に関する最新の知見を導入するとともに、既存及び追加のさまざまな機能を一つに統合し、取り扱いを容易にしたユーザーコードである。放射線源の定義部分と光子の追跡部分との二つに、それぞれ以下の機能を追加した。前者には、取り扱いを容易にするための線源体系の選択機能や計算時間を短縮するための再定義線源の利用に関する機能を追加した。後者には、複数の検出器間における同時・逆同時計数事象を評価する機能及び複数の着目領域における光子の挙動の追跡機能を追加した。本報告では、開発したユーザーコードの適用例を紹介するとともに、その有効性について述べる。
竹永 秀信
プラズマ・核融合学会誌, 79(8), p.790 - 804, 2003/08
トロイダルプラズマにおける粒子輸送解析手法についてまとめたものである。粒子束を拡散項と対流項の和で表す粒子輸送モデルを導入し、それらの特性を表す粒子拡散係数と対流速度を評価するために必要な実験手法及び解析手法について説明した。まず最初に、プラズマ内の粒子バランスについて述べ、粒子輸送モデルを説明した。さらに、そのモデルを用いて、簡単な場合の密度分布について考察し、粒子拡散係数と対流速度及び粒子源分布によりプラズマ密度分布が決定されていることを示した。次に、粒子輸送解析に必要な粒子源の評価について、水素原子密度測定法とプラズマ中の水素原子・分子挙動をモデル化したモンテカルロ法によるシミュレーションを組み合わせた解析手法を説明した。これらをもとに、粒子拡散係数と対流速度の導出方法について、解析例を示しながら密度勾配と粒子束の関係を用いた手法,電子密度分布の時間発展計算による手法、及び定常解と摂動法を組み合わせた手法を説明した。また、不純物輸送に関しても、不純物ガスパフ変調法と不純物密度分布の時間発展計算による手法について説明した。
大山 研司*; 伊藤 晋一*; 大友 季哉*; 長壁 豊隆; 鈴木 淳市; 松田 雅昌; 桑原 慶太郎*; 新井 正敏*
Applied Physics A, 74(Suppl.1), p.S1598 - S1600, 2002/12
被引用回数:2 パーセンタイル:11.51(Materials Science, Multidisciplinary)パルス中性子源に設置されるチョッパー型非弾性散乱中性子分光器に対して、その分解能の計算をモンテカルロシミュレーションにより行った。その結果、大強度陽子加速器計画(原研-KEK統合計画)における非結合型液体水素中性子モデレーターにダブルフェルミチョッパーを組み合わせた場合、0.1%のエネルギー分解能を達成できることが明らかになった。
渡邊 立子; 斎藤 公明
Radiation and Environmental Biophysics, 41(3), p.207 - 215, 2002/08
被引用回数:21 パーセンタイル:51.29(Biology)100eVから1MeVまでの単一エネルギーの電子線による水溶液中でのプラスミドDNAの鎖切断の誘発について、モンテカルロシミュレーションによって研究を行った。鎖切断生成のメカニズムとして水ラジカルによる間接作用のみに注目し、モデル化を行った。このモデルに基づき、DNAの一本鎖切断(SSB)と二本鎖切断(DSB)の線量効果関係をシミュレートし、それぞれの生成収率を計算した。この結果、SSBは線形,DSBは線形-二次の線量効果関係が得られた。DSBについては、線量効果関係が電子のエネルギーに大きく依存し、1keVの電子によるDSBの大部分は線形成分、すなわち単一事象によって生じることがわかった。また、SSBとDSBはそれぞれ1keVで最小値と最大値をとる逆のエネルギー依存性がみられ、1keVの電子のような放射線飛跡末端での間接作用による重篤なDNA損傷の生成しやすさが示唆された。これらの結果は、実験値をよく再現しており、本研究での鎖切断生成のメカニズムのモデルの妥当性を示すもので、生体への放射線作用に重要な役割を示すラジカルによる間接作用のDNA切断機構に関する理解が深まった。
鈴谷 賢太郎; 小原 真司*
まてりあ, 41(3), p.206 - 215, 2002/03
第三世代放射光源SPring-8より得られる高強度の高エネルギー単色X線(E30keV)を用いた回折実験及び実験装置(BL04B2高エネルギーX線回折用2軸回折計)の概要と、その高エネルギー単色X線回折によるランダム系物質:酸化物ガラスの構造研究の現状について解説した。高エネルギー単色X線の持つ短波長,高透過能から、回折実験によって、高い散乱ベクトルQ(300nm)まで(吸収補正などの)データ補正のほとんど必要ない精度の高い構造因子S(Q)を得ることが可能となった。SiO,GeO,BOガラスなどの基本的なネットワーク形成酸化物ガラスの高エネルギー単色X線回折による高精度のS(Q)データに、逆モンテカルロ・シミュレーション(Reverse Monte Carlo Simulation = RMC)法を適用することによって、ランダム系物質の物性を研究するうえ上で極めて重要であるにもかかわらずこれまでデータ解析がほとんど不可能であった中距離構造(短範囲構造ユニットのつくるリング構造など)の信頼できるモデルを構築することに成功した。今後、ランダム系物質の特異な物性は、本研究で示されたような、中距離構造を含む大きな構造モデルをベースに理解が進むものと考えられる。
小原 真司*; 鈴谷 賢太郎
Physics and Chemistry of Glasses, Vol.43C 2002, p.51 - 54, 2002/00
第三世代放射光源SPring-8より得られる高強度の高エネルギー単色X線の持つ短波長,高透過能から、回折実験によって、高い散乱ベクトルQ (350nm)まで(吸収補正などの)データ補正のほとんど必要ない精度の高い構造因子S(Q)を得ることが可能となった。最も典型的なネットワーク形成酸化物ガラス:シリカ(SiO)の高エネルギー単色X線回折による高精度のS(Q)データに、逆モンテカルロ・シミュレーション(Reverse Monte Carlo Simulation = RMC)法を適用することによって、ランダム系物質の物性を研究するうえで極めて重要であるにもかかわらずこれまでデータ解析がほとんど不可能であった中距離構造(短範囲構造ユニットのつくるリング構造など)の信頼できるモデルを構築することに成功した。今後、ランダム系物質の特異な物性は、本研究で示されたような、中距離構造を含む大きな構造モデルをベースに理解が進むものと考えられる。
小原 真司*; 鈴谷 賢太郎
放射光, 14(5), p.365 - 375, 2001/11
第三世代放射光施設における高エネルギーX線回折は、液体やアモルファス固体,ガラスなどのランダム系物質の構造解析に大きな進歩をもたらした。特に、X線の波長が短いため、高い散乱ベクトルQまで測定できるので、実空間分解能が飛躍的に向上した。また、X線の強度と透過能が高いため、少量の試料を透過法で測定できるので、高温高圧下での測定も比較的容易である。したがって、これまで(パルス)中性子回折によって調べられてきたランダム系物質のデータとの直接比較が可能である。われわれは、SPring-8において、ランダム系物質専用の高エネルギーX線回折計を建設し、いくつかの酸化物ガラス(SiO及びGeOガラス)の中距離構造を明らかにした。特に、高エネルギーX線回折とパルス中性子回折の両データに、逆モンテカルロシミュレーションを適用し、中距離構造を含むガラスの大きな構造モデルの構築に成功した。これらの高エネルギーX線回折を中心とした、ランダム系物質の短・中距離構造の精密な構造解析法は、高温下でのランダム系物質の構造変化を調べる研究などにも適用され、SiOガラスは1000の高温下でも短距離構造は変化せず、わずかに平均的な中距離構造に変化が現れるだけであることが明らかになった。
渡辺 立子; 斎藤 公明
Radiation Physics and Chemistry, 62(2-3), p.217 - 228, 2001/09
被引用回数:36 パーセンタイル:90.76(Chemistry, Physical)電子線照射による水の放射線分解過程の系統的な理解のために、シミュレーションによる研究を行った。さまざまなエネルギー(100eVから1MeV)の電子を水に照射した場合について、電子によるエネルギー付与の分布、ラジカルの分布、酵素存在下でのラジカルの化学反応過程をモンテカルロ法によりシミュレートした。この結果を解析したところ、数10nmの領域内でのエネルギー付与構造やラジカルの初期分布が、拡散後のラジカル収率や化学反応過程と強い関連性があることがわかった。また、線量が化学反応やラジカルの収率に与える影響についても解析したところ、照射電子のエネルギーにより、線量が化学反応やラジカル収率に与える影響が異なることがわかった。さらに、OHラジカルスカベンジャー存在下での化学反応についても調べた。
神谷 富裕; 酒井 卓郎; 平尾 敏雄; 及川 将一*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, 181(1-4), p.280 - 285, 2001/07
被引用回数:2 パーセンタイル:21.1(Instruments & Instrumentation)原研高崎の重イオンマイクロビーム・シングルイオンヒットシステムを用いて、Si PINダイオードの局所領域にMeVエネルギーの重イオンを繰り返し入射することにより過渡電流波高をすべて計測し、照射損傷に由来する波高の減衰を観察した。その減衰傾向を特徴づけるため、統計関数ワイブル分布関数を導入し、データ解析を行った。mレベルで照射面積を変化させた場合、明らかな減衰傾向の違いが見られ、実験データから照射損傷と電荷収集の平面方向の広がりに関する情報を引出し得ることが示唆された。これらの測定を再現するために単純なモデルによるモンテカルロシミュレーションも試みた。発表では、照射実験、データ解析及びシミュレーションについて述べ議論する。
原子力コード研究委員会原子力コード評価専門部会
JAERI-Review 2000-027, 197 Pages, 2001/01
本報告書は、原子力コード研究委員会原子力コード評価専門部会の平成11年度の作業内容をまとめたものである。最近の原子力研究分野におけるモンテカルロシミュレーションの現状が記されている。特に、従来の臨界遮蔽炉心計算のほか、リスク解析や照射損傷、高エネルギー輸送計算、原子核理論へのモンテカルロ法の適用の現状が記されている。
横谷 立子; 斎藤 公明
Radiation Risk Assessment Workshop Proceedings, p.48 - 55, 2001/00
放射線によって生じるDNA損傷の特徴は、放射線のエネルギー付与とDNAの空間構造を反映していると考えられる。深刻な生物影響をもたらすと考えられるDNA損傷の多くは、飛程末端の低エネルギー電子により生成することが先行研究によって指摘されているが、飛程末端におけるナノメートルオーダーの微小領域のエネルギー分布やDNA損傷分布を実験的に観測するのは困難である。モンテカルロ法によるシミュレーションは、確率事象である放射線エネルギー付与と生体分子との相互作用を知るための有効な手段である。われわれは、放射線によるDNA損傷の特徴とメカニズムを、実験と直接比較が可能なDNA水溶液系における間接作用をモデル化し、シミュレートすることによって調べている。結果として、水溶液中でのDNA鎖切断の主原因であるOHラジカルの収率は飛跡末端付近で減少し一本鎖切断もこれを反映するが、より複雑な損傷である二本鎖切断は飛跡末端ほど効率よく生成すること、これらの収率には数10nmの範囲でのエネルギー付与の空間密度が重要であることがわかった。
渡辺 立子; 横谷 明徳; 斎藤 公明
Proceedings of 10th International Congress of the International Radiation Protection Association (IRPA-10) (CD-ROM), 6 Pages, 2000/05
細胞内での局所的なエネルギー付与は、細胞応答の性質に影響する。X線誘発オージェ過程を利用すると、生体を構成する原子の近傍へのエネルギー付与の効果の研究が可能である。本研究では、DNAを構成するリンK殻光吸収によるDNA鎖切断誘発のメカニズムの詳細をシミュレーション計算により検討した。X線誘発オージェ過程のモデル化を行い、水溶液中の電子によるDNA鎖切断誘発過程の計算コードに導入した。DNA鎖切断の生成過程は、光吸収と二次電子による電離・励起がDNA構成原子と水和水に生じた直接作用、二次電子に生成した水ラジカルによる間接作用の両方を考慮した。計算で求めたDNA鎖切断収率は実験結果をよく再現し、リンK殻光吸収により増加した。この増感効果の主な原因は、リンK殻光吸収に伴い放出される低エネルギーの電子が他の電子に比べて高い効率で直接効果を起こすためと結論づけられた。
斎藤 公明
Proceedings of 10th International Congress of the International Radiation Protection Association (IRPA-10) (CD-ROM), 6 Pages, 2000/05
U系列、Th系列、Kの天然放射性核種による空気カーマ率は、環境中の線源形状により変化する。線源形状とカーマ率の関係を、モンテカルロ・シミュレーション計算を用いて調べた。異なる線源形状を持ついくつかの典型的な地形をモデル化し、計算を行った結果、空気カーマ率の変化は線源が張る立体角にほぼ比例すること、しかし変化の程度は立体角の変化よりも小さいことがわかった。また、川の上では、線源を見る立体角が非常に小さくても、散乱線による空気カーマが有意に存在することが明らかになった。